ネパールプロジェクト(2015年終了)

Nepal project
首都カトマンズの南に位置するシンズリ郡の丘陵地域で、トマトやミカン、高地野菜など、土地に合った農産物栽培の支援を行っています。また、土壌の栄養状態の改善を目指した堆肥作りや、小規模灌漑の設置など、現地で持続的に農業を行うための環境整備を行っています。

背景

GLMiは、2011年3月からネパールプロジェクト立案に向けて事前調査を行ってまいりました。調査を通して見えてきたのは、ネパールの農民が直面している課題と、彼らのあふれる熱意でした。

ネパールと農業

首都カトマンズの喧騒を一歩離れると、田園風景から丘陵地域を経て、雪を被ったヒマラヤ連邦までを一望できる雄大な景色が広がります。美しい自然を擁するネパールですが、山岳地帯の内陸国である地理的な制約、電力、道路、灌漑などのインフラ不足、長引く政治体制の混迷などの課題を抱えており、南アジアでも最も所得水準の低い国に止まっています。ネパールでは総人口の6割強が農業に従事しており、またGDPに占める農業セクターの割合は3割と、農業が主要産業の一つになっていますが、急峻な地形が多い中、灌漑設備や農道などの農業インフラの整備も遅れており、生産性は低く、農業を生業とする人々の収入も低水準に止まっています。農業で生計を築くのが困難な中、若い世代を中心に出稼ぎに出る人々が増えており、海外からの送金はGDPの約2割を占めるまでになっています。働き盛りの若い世代が海外に出てしまうことでさらに農地の荒廃が進むという悪循環になっており、主要産業である農業の生産性を上げて、人々の収入の向上を図ることはネパールの大きな課題のひとつとなっています。

プロジェクトサイト:クセスワ・ドゥムジャ村

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クセスワ・ドゥムジャ村があるシンズリ郡は、開発指標が75郡中51番目と、ネパールの中でも相対的に貧しい郡です。クセスワ・ドゥムジャ村は、日本のODA支援によって建設されている幹線道路(シンズリ道路)によって、カトマンズまで数時間で行けるようになりましたが、村には電気が通っていません。集落は標高600mから2000mの間に点在しており、人口約5,800人の7割強が先住民族や低カーストの住民によって構成されています。

 
住民の大半は傾斜地の狭い農地を開拓して生活の糧を得ていますが、これまで技術普及を十分に受ける機会がなく、生計向上に繋げるためには、市場を意識したより生産性の高い作物の導入や技術改善の余地があります。また、農地開拓や森林伐採による土壌侵食も散見されています

あふれるエネルギーを村で

GLMiは、農業を生業としながら厳しい生活に直面しているクセスワ・ドゥムジャ村の人々の生計向上に貢献したいとの思いから、住民のニーズについて学ぶ集会を開催しました。住民は厳しい環境の中でも何とか自分たちの愛する土地で、自分たちの手で生活を改善したいという熱意にあふれ、「マンパワーとエネルギーにあふれているが、活用方法がない。技術的で商業的な農業を導入してエネルギーを注ぎたい」「シンズリ道路ができたことで、これまで夢にも思わなかったカトマンズ市場へのアクセスが可能になった。これから市場を意識した栽培技術を学んで生計を向上させたい」といった意見が上がりました。

活動内容

シンズリ郡の丘陵地域で、トマトやミカン、高地野菜など、土地に合った農産物栽培の技術支援を行っています。また、土壌の栄養状態の改善を目指した堆肥作りや、小規模灌漑の設置など、現地で持続的に農業を行うための環境整備を行っています。

住民と共に課題の特定

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事業開始直後に、合計8コミュニティで課題特定のワークショップを開催しました。グループに分かれて、日々の農業活動や直面する課題を図解し、代表者が発表してコミュニティ全体でのシェアリングを行いました。それぞれのコミュニティで気候に適した作物の選定、家畜の疾病対策、乾期の水不足などが課題として挙げられました。

高価値農産物の生産技術の普及

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課題特定のワークショップ開催後、住民にインタビューを行いながら、それぞれの気候帯や土質に適した作物の選定を行いました。標高が最も高い地域では温州みかんや日本の柿、ブロッコリー、カリフラワーなどの高原野菜が、麓から少し上がった地域ではハウストマトが選定されました。その後、各エリアにて選定された作物の技術研修が進んでおり、すでに野菜の収穫を迎え収入を上げている農家も出てきています。

 
また、そうした様子を見て周辺の住民が自発的に栽培を開始するなど、地域コミュニティに生産技術が根付き始めています。さらに、家畜飼育・ミルク生産技術の支援も進んでいます。乾期の飼料購入コストを下げるため、サイレージ(飼料作物の長期保存技術)研修を行いました

農業生産環境の保全と強化

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土壌侵食防止と飼料供給の観点から効果が高いネピアグラスと桑を選定し、等高線栽培の普及を進めています。また、ミミズ堆肥や家畜の尿を活用した液肥を作る技術の普及も行っています。さらに、乾期の農業用水確保のため、山の上方を流れる水源を活用した小規模灌漑を設置し、農産物の質と量の向上を目指しています。小規模灌漑の設計や、運営管理に関してはワークショップを開催し、住民と一緒につくりあげる形を大切にしています。

マーケティング支援

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プロジェクトの成果により、村では地域資源を循環的に活用した高価値農産物の生産の基盤が整い、生産技術の普及が進んでいます。今後は住民が最適な収入を得て、持続的に環境調和型農業を継続していくことができる環境を整えるため、環境調和型農業による農産物のブランド「Green Dumja」を立ち上げ、マーケティング支援など供給体制の整備も注力していきます。