ネパールプロジェクト完了報告

2016/03/04

ジーエルエム・インスティチュート(GLMi)が2012年7月からネパールにおいて開始した「シンズリ郡丘陵地域における環境調和型農業を通じた農民の生計向上支援事業(以下プロジェクト)」の3年次が2015年10月に終了し、約3年に亘るプロジェクトが無事に完了しました。本項ではそのプロジェクトの様子について完了報告としてお伝えします。

村の豊かな資源と特性を活かして

プロジェクトサイトはネパールの首都カトマンズの南にあるシンズリ郡クセスワ・ドゥムジャ村。そこには豊かな資源が溢れています。マハバラート山脈の頂付近から湧き出るいくつもの水流、標高ごとに植生を変えるハーブ類、良質な肥料の元となる家畜の堆肥や尿。しかしながら、村では予算や技術支援の不足から、これら豊かな資源の有効活用は進んでいませんでした。また、ここの住民の大半は農業で生計を立てており、彼らの生計向上に繋げるためには、市場を意識した生産性の高い作物の導入や技術改善が必要でした。GLMiは2011年から、現地NGO、Srijansil Welfare Society(ネパール語:Srijansil Sewa Samaj)と共に現地調査や住民との話し合いを重ねました。そこでは、「技術的で商業的な農業を導入し、そこへ活用方法のなかったエネルギーを注ぎたい」「シンズリ道路のおかげでカトマンズ市場へのアクセスが可能になったので、市場を意識した栽培技術を学び生計を向上させたい」などのニーズが伝えられました。こうした住民の熱いやる気に応えようとプロジェクトを立案し、2012年7月から、村の豊かな資源を活かした環境調和型農業を通じて住民の生計向上を図るプロジェクトを開始しました。

高低差のあるプロジェクトサイトの様子

1年次と2年次には山の水源を活かした自然流下式小規模灌漑の建設や、水源に恵まれないエリアでは貯水池の設置を行い、合計で420世帯が裨益しています。この灌漑の建設には住民たちが自ら石の切り出しや砂の運搬を行い、積極的に建設に携わりました。住民は灌漑により飲料水を得ただけでなく、乾期の野菜栽培や栽培品種の多様化を図ることができるようになりました。

プロジェクトでは、地域資源の循環的な活用も推進しました。83世帯が家畜舎の改良を行い、家畜の尿を集めてそこに自生するハーブを浸けて発酵させた有機農薬や液肥をつくり、野菜栽培に用いています。また、185世帯がネピアグラス(Pennisetum purpureum)などの飼料作物を農地の縁に沿って植え付けました。これによって土壌を浸食から守り、また収穫した飼料を家畜に給餌することで、ミルクの生産量と品質の向上を目指しています。

自生するハーブを用いた有機農薬生産研修

標高600メートルの麓から、2,000メートル近くの頂上付近まで集落が広がっているクセスワ・ドゥムジャ村では、その地形により地区ごとの気候風土が変化に富んでいます。プロジェクトでは1年次に、現地政府機関から技術協力を得て、集落ごとに住民とワークショップを開催しながら、高地・中地・低地の各エリアに適した農作物の選定を行いました。プロジェクトによる栽培研修やフォローアップ活動を通じて、現在村では、トマト、苦瓜、カリフラワー、葉物野菜、人参、椎茸、ライムや温州みかん等、集落ごとに地理的な特性を活かした様々な農産物の栽培が行われています。3年前までトウモロコシ、菜の花や豆類の栽培が中心の慣習的な農業を行う村だったクセスワ・ドゥムジャ村は、現在では市場性のある野菜や果樹栽培を行う村へと変化を遂げました。

集荷・情報センターに搬入された野菜

 

マーケティング支援と、震災を乗り越えた経験

最終年次である3年次は、活動の経済的持続性のためにマーケティング支援を中心に活動をしました。3年次開始時には、成功事例に続こうと、自発的に市場性のある野菜や果樹栽培を開始する住民の輪が広がっていました。また、農民グループの編成も進み、集落ごとに合計11の農民グループが編成されました。そして、「集荷・情報センター」も完成しました。この施設は、収穫された農産物やミルクの流通・販売拠点となり、農民が情報を獲得、共有するための機能も持っています。
住民がその完成を心待ちにし、建設も順調に進んでいた中、4月25日、ネパール大地震が発生しました。続く5月12日に発生した余震により更に被害が拡大し、村では約300世帯が家屋の全壊、残る世帯も家屋の半壊や亀裂などの被害を受けました。震災後、大半の住民がトタンの仮設住居での生活を余儀なくされました。地震発生直後は3年次中に住民が農業栽培を再開できないケースも想定していましたが、住民たちは農業が生活を立て直すための重要な営みであると考えており、混乱が落ち着いてすぐに自らの手で農業を積極的に再開しました。その甲斐あって、地震発生時には困難と思われた事業目標の達成が実現しました。
震災の影響でプロジェクトは2ヶ月の延長となりましたが、無事に集荷・情報センターの建設も完了し、農産物のカトマンズやシンズリ道路沿いのレストランへの出荷がスタートしました。プロジェクト終了時に行った調査では、裨益する住民の農産物販売による平均年間収入が3倍に増加したことが確認できました。3年間と限られたプロジェクト期間において、更に最終年次には震災に見舞われた中、生計向上という目標が達成されたのは、住民たちの熱意と自助努力の賜物です。

集荷・情報センターに農作物を搬入する農民

将来に続くGreen Dumja

プロジェクトでは「Green Dumja」というキャッチフレーズを用い、環境調和型農業モデルの推進やそのステッカーを貼り農産物の販売を行いました。3年前にクセスワ・ドゥムジャ村がそうであったように、豊かな地域資源の有効活用がなされていないことは、シンズリ郡丘陵地域の共通課題です。環境と調和した農法を通じて実際に生計向上に結び付けた「Green Dumja」モデルはシンズリ郡農業開発事務所によっても高く評価され、プロジェクト終了後も継続支援されるよう予算が配分されました。このように、このモデルが多くのシンズリ郡内の農業開発で活かせるようになることを目指しています。
そして、これまで出稼ぎでしか生活を改善する手段がなかった村において、将来のビジョンを持って農業に参入する青年層が育ってきています。2011年の事前調査で住民から、「農業で稼げるようになったら若者たちが出稼ぎのために村から出ていかなくて済むようになる」との声が上がったことが思い出されます。

ビジョンを持って農業に積極的に投資する青年

今後の現地の運営について

 今後は、現地のカウンターパートNGOであるSrijansil Welfare Societyが事業活動全体の管理を引き継ぎます。また、農民らによって結成された「管理委員会」や11の農民グループが、「集荷・情報センター」の運営管理を担います。このように、様々な団体が助け合い、また農民たちが自主的に働くことによって、これからの事業運営を継続していきます。GLMiとしても引き続きプロジェクトのフォローアップを行います。

集荷・情報センターにて搬入したトマトを量る様子

 

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