開発援助の現場から第9回 タンザニア:農業研修プロジェクト評価2

2005/12/01

原田陽子(GLMi会員)
最近「ジェンダー」という言葉の定義をめぐって、国会や政府機関で議論が続いています。「ジェンダー」とは、もともと「男女の役割分担やそれにまつわる社会的な概念」のことで、「男のくせに泣くんじゃない」とか、「女のくせに料理もできないで」など、時代や文化を反映して培われた、いろいろな社会通念を表します。ジェンダーは、時とともに変化するので、例えば明治時代には、「女のくせに自転車なんかに乗って」とか言われたそうですが、現在では自転車どころかバイク、トラック、飛行機まで操縦しています。また、最近では、料理の上手な男性は人気があり、「ごきぶり亭主」などという言葉は死語に近くなっているのではないでしょうか?
開発援助の世界でも、「ジェンダー」は重要なテーマになっています。その国のジェンダー問題に介入することは、その国の文化や社会通念に抵触するのではないか、と長い間議論されてきましたが、プロジェクトごとにきめ細かい配慮(目配り)をすることによって、プロジェクトの効果が高まることも立証されています。例えば、女子教育が良い例です。日本も昔はそうでしたが、「女には教育はいらない」というジェンダーがありました。日本全体が貧しく、子沢山であり、限られた教育資金を男子に投入せざるをえなかったという背景もあります。現在でも、貧しい国々の多くで、小学校に行けない女子が多数存在しています。行けない理由は様々ですが、両親への働きかけを初め、1 つ1つの原因を解決していかない限り、校舎を建てただけでは女子の就学率が伸びるわけではありません。
農業分野でもジェンダーへの配慮は重要です。今年の夏、JICA がタンザニアで実施する農業研修プロジェクトに参加しました。簡単で費用のかからない灌漑稲作技術を一般農民に普及することを目指しているこのプロジェクトでは、開始当初から「男女農民の両方が、プロジェクトの便益を同等に得ることができるように」とのジェンダー配慮がなされてきました。例えば、研修プログラムの参加者枠は男女半々にする、男女の参加者が同じように発言できるように気をつける、男女とも実地訓練に参加できるように工夫する等の配慮がされています。さらには、新技術の導入で増加した収入が特定の人に独占されることなく、家族全員のために使われるように社会を啓発する必要があります。主婦が家計を握っている日本と異なり、途上国では、男性が家計を握っている場合が多いのです。例えば、増えた分の収入が、夫の飲み代に消える場合もあります。プロジェクトでは、そういう事態を防止するために、ジェンダー啓発研修や家計管理研修も実施されました。
今回の仕事は、プロジェクトが行ったジェンダー配慮が、研修参加者と地域社会にどのような効果を生み出しているかを確認することでした。当初は、妻の研修参加に夫が難色を示したり、男性だけが発言したりと、男女双方の参加を促すだけでもなかなか大変だったようです。しかし、プログラム開始から2年経った今、関係者の期待を越えた成果を生み出しつつあることが認められたのです。男女とも、研修技術を実践に役立て、それが収量や収入の増加につながっているばかりではなく、家庭や地域社会での女性に対する認識にも変化が起きていました。
「役に立つ技術」を習得し自信をつけた女性達。ジェンダー研修や家計管理研修を通じて、男女互いの役割を認識し、見直し始めた農民達。このような変化に伴い、それまで夫が管理していた収入に対し、妻が使い道を提案したり、実際に使ったりすることが出来るようになりました。その結果、妻の労働意欲が向上し、更なる収量の増加に貢献したとの報告もありました。
このプロジェクトでは、女性だけを対象とした活動は行われていません。ただ、男女双方がプロジェクトに参加するだけではなく、プロジェクトから受け取る便益をも共有できるように、要所要所で工夫を凝らしたことが、期待以上の成果を生み出すことにつながったようです。「私たちの可能性に気づかせてくれて、本当にありがとう」そう言いながら、笑顔で握手を求めてきた彼、彼女らの手によって地域社会に起こってきた小さな変化が、大きな変革へと結実していくことを願ってやみません。

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