開発援助の現場から第12回 フィリピン:アグロフォレストリー

2010/08/01

合原裕人(GLMi会員/専門家)
光陰矢の如しとはよく言ったもので熱帯林保全に従事して20年以上が経ちました。私がどのように国際協力というインターナショナルフリーターになったのか、アグロフォレストリーと出会ったのか綴ってみたいと思います。
熱帯林に興味をもったのは小学4年、ジャングルで医療活動をするシュヴァイツアー博士に感銘したことでした。その後テレビで放映されたジャングル破壊で燃える森林と逃げ惑う動物にショックを受け、何とか守れないものかと思うようになりました。高校では落ちこぼれて医学はあきらめ森林を守る方に進み、龍馬の故郷にある大学で、木のお医者さんを目指して樹病学を専攻しました。卒業後西郷さんの里に移動して、桜島の灰を浴びながら電子顕微鏡など使い研究を続けました。しかし、熱帯林保全は病気や害虫ではなく、大敵は人間であることはわかったので、研究に疑問を感じ始めました。また、ほぼ全員公務員勉強をする大学の風土や教授とも合わず、ここでも落ちこぼれ状態でした。当時国際協力とか熱帯林は情報も少なく、何をすべきかわからず苦悩の日が続きました。
そんな時調査でパプアニューギニア(PNG)に行く機会を得て、ここで何も見つからなかったら就職する覚悟で参加しました。水産学部の練習船に揺られること2週間、到着し、怖い顔をしたニューギニア人を見て、ビビりました。土壌と焼畑の調査でラバウルの奥地まで走り、すさんだ都会の人とは対照的に村人の人懐っこい笑顔と自給自足の生活を見ると、近代化とは何ぞや?という疑問が湧きました。そして伝統的焼畑の現場を見た時に、これが森林保全の解決策だ!と自分の中で叫んだのを今でも鮮明に覚えています。これがアグロフォレストリーを目指すきっかけとなりました。帰国して教授に研究テーマの変更と留年をお願いしましたが、留年は前代未聞と拒否されました。こちらも無理やり留年して土壌微生物生態の研究に変更しました。伝統的技法・慣習に自然との共存の鍵がある。このことに気づいてからは日本の田舎についてもかなり注視しました。村社会には森林保全に限らず開発援助で参考となる手法や慣習が数多くあるのです。
伝統的焼畑移動耕作。手前が現在の畑、左奥は5年前から休閑した畑、右奥が20年でほぼ回復した2次林、来年はここに火が入る。これがアグロフォレストリーに取り組むことになった思い出深い畑である。
留年して院を卒業させてもらい、PNGで痛感した語学を補うため渡米、言葉の壁で丸1日半食事ができない苦い経験をしました。語学研修では中近東・中南米人に揉まれ、沈黙は損なり、考え方・習慣の多様性、しかし人間の本質は変わらないということを学びました。アメリカ大学進学を目指しましたが、資金不足で断念。不運は続くもので彼女にも振られてしまい、自暴自棄に陥りかけながら、なんとか熱帯林を勉強できる方法を模索しました。資金を貯める、熱帯林を勉強する、嫁さんを見つけるとの3つの目標を胸に秘め、協力隊に応募、第1希望であったフィリピンに森林経営で大学のアグロフォレストリー学科に派遣されました。(3つの目標は達成)
その後はJICA専門家として東南アジア各国の森林プロジェクトに参加しています。熱帯林保全というと植林のイメージが強いですが、実は植林より地域住民による森林への圧力を軽減させることが最重要課題です。つまり住民の生活が向上しないと、森林依存体質から抜け出せません。そのためには農産物の生産向上、付加価値による収入向上、これら一連の過程を住民が行えるよう能力向上をすることです。地域の自然・経済・社会条件を把握していないと、単にアグロフォレストリーを行っても意味がありません。途上国では複雑に体系化されたアグロフォレストリーを実践させようとして、定着しない事例が多くあります。上の3条件のうち、経済(住民の投資量と市場)を考慮していない事例が大半です。地域毎に異なるアグロフォレストリーがあると言われ、社会(伝統)的に淘汰され自然条件に則した体系は必ずあります。ただ、伝統的アグロフォレストリーは自給自足に向いていますが、市場性では不利です。東南アジアでは山奥でも市場経済が浸透し、住民は自給自足より現金収入を望む傾向が高く、単に技術だけでは誰も実践しようとしません。如何に収入を上げるか、持続的な農業がいかに経済的であるかを説き、住民に実践してもらう。その戦略を考えるのも現場だからできることです。現場には伝統的技術が必ずあります。知的宝物を探すこと、これも現場ならではの楽しみでもあります。
◆質問などがありましたら…

 

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